残念な防災図鑑　９

横浜市のオフィス街にある防災コンサルティングを行う株式会社防災小町では、日々さまざまな依頼が舞い込んでくる。

「小松先輩、今日の依頼は介護施設からですねぇ」
渡辺さんが穏やかに資料を読みながら話しかける。
「介護施設か…高齢者が多くいる場所は特に避難が難しいから、しっかり確認しないとね」
小松さんは、普段より真剣な表情で答える。

今回の依頼は、横浜市内の小規模な介護施設。地震や火災が発生した際、寝たきりの利用者をどのように避難させるか、また施設全体の安全性について相談を受けていた。

施設に到着すると、明るく温かみのある雰囲気が広がっていた。高齢者たちがリラックスしている様子は、平穏そのものだが、災害時の備えはどうだろうか。施設長が案内をしてくれた。

「こちらが私たちの施設です。防災対策については心配しているのですが、どこから手を付けていいのか…」
施設長は戸惑った様子で話す。小松さんと渡辺さんは、まず施設内を見て回ることにした。

「このベッドエリアですが、寝たきりの方が多く、どう避難させればいいのか悩んでいます」
施設長が案内する場所には、多くのベッドが並んでいた。動けない利用者がほとんどで、確かに素早い避難は難しい。

「まずは、ベッドが倒れたり移動しないように固定具を使うことが大切です。また、避難時には、簡単に動かせるようなキャスター付きのストレッチャーや、抱え上げ補助具を準備しておくといいですね」
小松さんが冷静に提案する。施設長はすぐにメモを取り始めた。

「あと、避難ルートですが、廊下に車椅子や他の物が置かれているので、ここも整理しないといけないですねぇ」
渡辺さんが柔らかい声で指摘すると、施設長は驚いた表情で、今まで気づかなかったことを反省しているようだった。

続いて、非常口の確認。そこには施設の備品が積まれており、緊急時には使えない状態だった。
「非常口は緊急避難の命綱です。何も置かないように徹底しましょう」
小松さんが厳しく指摘する。施設長はすぐにスタッフに指示を出し、片付けを開始した。

「災害時には、利用者の方々の安全を第一に考えないといけませんねぇ。特に高齢者の方々は、自力で避難できない場合が多いですから」
渡辺さんの穏やかな言葉に、施設スタッフも頷きながら対応していた。

「防災対策は大変ですけど、いざという時に備えておけば安心ですからね」
小松さんが最後に施設長へ励ましの言葉をかけると、施設長は感謝の意を込めて深く頭を下げた。

仕事を終え、二人は施設を後にする。
「介護施設では特に防災の重要性を感じますねぇ」
渡辺さんがしみじみと語る。
「そうだね。弱者を守るために、しっかりとした対策が求められる。手遅れになる前に改善できてよかったよ」
小松さんは満足そうに答えた。

こうして、二人の防災対策の仕事は続いていく。どんな現場であれ、彼女たちがしっかりとした助言を与えることで、少しずつ改善が進んでいくのだろう。