彼の名は小松五郎、フリーの防災コンサルタントである。五郎は防災について独自の哲学を持ち、その哲学を求めて一人歩き続ける。
今日は、横浜市内にある小さな学校を訪問することになっていた。依頼者は新任の校長、佐藤先生。生徒数は少ないが、校舎自体が築50年以上の古い建物であり、防災対策がほとんど行われていないという話だ。特に地震への備えが心配で、小松のアドバイスを求めていた。
五郎は、静かな住宅街の中にたたずむ古びた校舎を見上げた。「学校か…子どもたちの命を守るには、準備と意識が欠かせないな」と心の中で呟きながら、校門をくぐる。
「小松さん、お待ちしておりました」と笑顔で出迎えたのは、若々しい佐藤校長だった。「防災に詳しい方に来ていただけるなんて、本当に心強いです。正直、この学校は対策が不十分で…生徒たちの安全を守るにはどうしたらいいか、悩んでいたんです」
五郎は校舎を見渡しながら、静かに頷いた。「学校は、災害時に多くの人が集まる場所ですから、何よりも避難経路や建物の安全性を確認することが大事です。まずは校舎の状況を見させていただきましょう」
佐藤校長に案内されながら、五郎は教室や廊下をじっくりと確認していった。古びた校舎には、倒れやすい本棚や備品が目立ち、避難経路も狭く、物が置かれている箇所がいくつか見受けられた。
「まず、教室内の家具や備品の固定が不十分です。この本棚が地震で倒れたら、すぐに生徒たちが怪我をしてしまうでしょう。特に、子どもたちはパニックになりやすいので、動線を確保し、危険なものはできるだけ撤去するか、固定しておく必要があります」と、五郎は真剣な表情で言った。
「そうですね。子どもたちの安全を第一に考えないと…」と、佐藤校長はメモを取りながら答える。
「それから、避難訓練も重要です。定期的に行っていると思いますが、ただ机の下に隠れるだけではなく、実際に避難経路を確認しながら避難する訓練を行うと、いざというときに落ち着いて行動できます。特に、地震が起こった際には、教師がリーダーシップを発揮し、生徒を安全に誘導する役割を果たさなければなりません」
「確かに、避難訓練は毎年やっていますが、ただの形式になってしまっていたかもしれません。実際にどの道を使って避難するのか、きちんと確認しておく必要がありますね」と、佐藤校長は真剣に頷いた。
「また、避難所の確認も大切です。校庭や体育館など、どこに避難するかを明確にし、生徒や教職員全員が共有しているかどうかを確認しましょう。万が一、避難所が使えない場合の代替ルートも考えておくといいですね」
五郎は校庭に目を向けながら、続けた。「それから、災害時には電気や水道が止まることが考えられます。非常用の備蓄があるかどうか、確認してみましょう。水や非常食、応急手当用品など、最低でも3日分は準備しておくことが理想です」
「備蓄か…確かに考えていませんでした。生徒たちが学校にいる間に何か起きたら、どうするかを考えないといけませんね」と佐藤校長は肩を落としつつも、すぐに行動に移そうとしていた。
「大切なのは、日頃の準備です。災害はいつ起きるか分かりませんが、備えておくことで被害を最小限に抑えることができます。そして、生徒たちに防災意識を持たせる教育も重要です。普段から防災について話し合うことで、いざというときに冷静に対処できるようになります」
佐藤校長は感心したように、「防災教育…なるほど、子どもたちにも学んでもらうべきですね。自分たちで身を守る方法を知ることは、大切なことですね」と言った。
「その通りです。学校はただの学びの場ではなく、安全な避難場所としての役割も果たします。防災対策を充実させることで、地域全体の安心感も高まるでしょう」と五郎は微笑んだ。
「小松さん、今日は本当にありがとうございました。早速、対策を講じていきます。これからはもっと防災に意識を向けて、学校全体で取り組んでいきます」と、佐藤校長は深々と頭を下げた。
五郎は校舎を後にし、静かな通りを歩きながら思った。「子どもたちの命を守る責任は大きいが、その分、防災の備えがしっかりしていれば、安心感も広がる。防災は教育の一環でもあるんだな」
空はどこか穏やかに見えたが、五郎は一歩一歩、孤独な防災の旅を続ける。