横浜市のオフィス街にある防災コンサルティングを行う株式会社防災小町では、日々さまざまな依頼が舞い込んでくる。
「今度の依頼、飲食店ですよ、小松先輩」
渡辺さんが、書類を見ながらふわっとした口調で報告した。
「飲食店か…厨房の火災が心配だな。特に油を使うところだと危ない」
小松さんは、すでに厨房の油まみれの換気扇や火元の様子を想像していた。
二人が派遣されたのは、横浜市中心部にある古びた和食の居酒屋だった。地元でも評判の良い店だが、建物自体が古く、特に防災対策が不安視されている。
「いやぁ、お二人とも、ようこそ!実は最近、消防署から指摘されまして…厨房の換気扇が火災の原因になるって…」
店長は慌てた様子で二人を迎え入れた。
「なるほど、まずは厨房を見せていただけますか?」
小松先さんが真っ先に厨房へ向かうと、案の定、換気扇には油がこびりついていた。
「これは、相当危険ですね。油がたまっていると火がつきやすいですし、換気がうまくできていない場合、火災の原因になります」
小松さんが冷静に指摘すると、店長は困った表情を浮かべた。
「実は、忙しくて掃除が後回しになっちゃってて…」
「定期的に掃除をしないと、火災のリスクが高まりますよ。特に換気扇やダクト内の油汚れは、危険度が高いですから」
小松さんの厳しい口調に、店長は真剣な顔でうなずいた。
「こちらの消火設備も見せてください」
渡辺さんがやわらかい口調で尋ねると、店長はお店の裏に案内してくれた。
そこには、古いタイプの消火器が一つだけ設置されていた。
「これだけですか?」
「はい…一応、これで大丈夫だと思っていたんですが…」
「厨房用の消火器は、火が高温になる油火災に対応したものが必要です。通常の消火器では対応しきれないことがあります」
渡辺さんのゆったりとした説明にもかかわらず、店長は焦りを見せ始めた。
「油火災には専用の消火器を使うべきですし、消火設備の設置場所も見直す必要がありますね」
小松さんは、店長に代替の消火器を導入することを強く勧めた。
その後、二人は避難経路の確認に移った。狭い店内は、お客様が密集することが多く、もし火災が発生したら、混乱が予想された。
「こちらの非常口、物が置かれていて開けにくいですねぇ」
渡辺さんが、非常口をふさぐように置かれた荷物を指摘すると、店長は慌てて片付け始めた。
「避難経路は常に確保しておかないと、万が一のときに避難が遅れてしまいます。火災は一瞬で広がることもありますから、どんなに小さなスペースでも油断はできません」
小松さんの真剣なアドバイスに、店長はしっかりと対応することを誓った。
「最後に、火災訓練はされていますか?」
「実は…お客様の前で訓練を行うのは少し恥ずかしくて…」
店長が頭をかきながら答えると、小松さんは少し微笑んだ。
「火災訓練は、恥ずかしがっている場合じゃありません。訓練が命を救うこともあるんです。定期的に行って、スタッフがしっかりと避難の手順を覚えておくことが大切です」
渡辺さんもうなずきながら「その通りですねぇ」と付け加えた。
こうして、二人は飲食店の防災対策をしっかりと見直し、改善点を店長とスタッフに伝えた。
「油火災のリスクを軽減するために、日常的な清掃と、適切な消火設備の導入が必要です。訓練も大事ですので、忘れずに実施してくださいね」
小松さんの言葉に、店長とスタッフは感謝の気持ちを込めて深く頭を下げた。
「飲食店は、火災のリスクが特に高いですねぇ。ちゃんと準備しておかないと…」
渡辺さんが、のんびりとした口調でつぶやくと、小松先さんは一歩先を歩きながら「うん、ここまで言えば、大丈夫だろう」としっかりと答えた。
こうして、二人の防災対策の仕事は続いていく。どんな現場であれ、彼女たちがしっかりとした助言を与えることで、少しずつ改善が進んでいくのだろう。