孤独の防災　１０

彼の名は小松五郎、フリーの防災コンサルタントである。五郎は防災について独自の哲学を持ち、その哲学を求めて一人歩き続ける。

今日、五郎が向かうのは横浜市内のマンション管理組合からの依頼だ。築30年を超える大規模マンションの住民たちが、防災対策について見直しを行いたいと考えている。特に、地震や台風などの自然災害に対する備えを強化したいという。

「マンションは一つの小さな社会だ。全員で協力しなければ、災害時には混乱が起こるかもしれない」と五郎は心の中でつぶやき、管理棟へ向かった。

エントランスで出迎えたのは、管理組合の会長、石田さん。彼は五郎に事情を説明した。「小松さん、このマンションも築年数が経ち、住民の高齢化が進んでいます。地震や台風に対して、皆がどのように行動すべきか明確にしておきたいのです」

「住民同士の協力が重要になりますね。特に災害時、エレベーターが使えない場合の避難方法や、備蓄の分散管理が鍵となります」と五郎は静かに答えた。

五郎と石田さんは、マンションの共用部と階段を見て回った。特に気になったのは、エレベーターが高齢者にとって欠かせない存在であることだ。「地震が起きた場合、エレベーターが停止する可能性が高いです。エレベーターに依存しすぎるのではなく、階段での避難を考慮した訓練が必要です」と五郎は指摘した。

石田さんは真剣な顔で頷いた。「確かに、その点をあまり考えていませんでした。特に高齢者や小さな子供がいる家庭には、どのように避難すればいいか事前に周知する必要がありますね」

「その通りです。避難訓練を定期的に行い、住民が階段を使って避難する際のサポート体制を整えることが大切です。また、階段の踊り場には手すりを設置し、滑り止めの措置を講じると良いでしょう」

次に、五郎はマンション全体の備蓄について尋ねた。「災害時には、一時的にマンション内に閉じ込められる可能性もあります。各家庭で最低限の備蓄を用意するのはもちろんですが、共用部にも非常用の水や食料、医薬品を備えておくことをお勧めします」

石田さんは深く頷き、「共用部の備蓄については、これまであまり考えていませんでしたが、検討します。特にマンション全体で協力しないと、住民が不安になりますからね」と答えた。

「また、災害時に連絡が取れなくなった場合のために、マンション内での安否確認システムを作るのも一つの手です。住民同士が連絡を取り合い、互いに無事を確認できる仕組みを整えることが大切です」と五郎は提案した。

「安否確認システムですか。確かにそれがあれば、災害後の混乱を減らせそうです。防災は準備だけでなく、住民同士の絆を深める機会にもなりますね」と石田さんは感心した様子で話した。

五郎はマンションの外を見上げながら、静かに言葉を紡いだ。「防災は一人の力ではなく、皆が協力することで実現します。このマンションも、住民が一丸となれば、災害時に強いコミュニティを築くことができるでしょう」

「その通りです。私たちもこれを機に、住民同士の結束を強め、防災意識を共有していきます」と石田さんは決意を新たにした。

五郎はマンションを後にし、夕暮れの街並みを見渡しながら歩き続ける。「備えあれば憂いなし。マンションという小さな社会を守るためにも、住民同士の協力が何よりも大切だ」と心の中でつぶやいた。

孤独な防災の道は、まだまだ続いていく。