横浜市のオフィス街にある防災コンサルティングを行う株式会社防災小町では、日々さまざまな依頼が舞い込んでくる。
「小松先輩、次の現場は、ちょっと変わっていて…劇場です」
渡辺さんがいつものようにゆったりと報告する。
「劇場か。確かに大勢の人が集まる場所だし、災害が起きたときはパニックになりやすいよね。重要な依頼だ」
小松さんはそう言いながら、資料をじっくりと確認した。
劇場に到着すると、華やかな照明がステージを照らしていた。今日はリハーサル中のようで、舞台上では俳優たちがセリフを練習している。
「こんにちは、今日はよろしくお願いします。防災面について、いろいろとアドバイスいただければ助かります」
劇場の支配人が深々とお辞儀をした。
「まずは、館内の避難経路を確認させてもらいますね」
小松さんが手慣れた様子で話し始めた。
劇場内を歩き回ってすぐにわかったのは、観客席の通路が少し狭く、椅子の配置が密集していることだった。
「この通路、もう少し広くした方がいいですね。緊急時には大勢が一気にここを通るので、スムーズに避難できるようにしておかないと危険です」
「なるほど。実は観客席を多くするために、通路を狭くしてしまったんです…でも安全面を考えると、そのほうがいいですね」
支配人は真剣な表情で小松さんの指摘を受け止めた。
次に、舞台裏へ移動。そこには舞台セットや照明機材があちこちに置かれていた。
「このエリア、道具が多すぎて、いざというときに避難が難しくなるかもしれません。特に火災のリスクを考えると、通路をもっと確保するべきです」
小松さんが警告すると、スタッフたちはすぐに片付けを始めた。
「あと、照明や機材が高温になることもあるので、火災のリスクを軽減するために、消火器の配置を増やすのも有効です」
渡辺さんが優しい口調で付け加えた。
劇場の安全対策が少しずつ改善される中、俳優たちも興味津々に話を聞いていた。
「こういうのって、普段あまり考えないけど、大事なことだよね」
「ほんと。お客さんの命を守るためには、まず自分たちがしっかり準備しないと」
俳優同士で話し合っているのを見て、小松さんはほっとした表情を浮かべた。
「それと、避難訓練は定期的に行っていますか?」
小松さんが支配人に尋ねると、彼は少し困った顔をした。
「実は、最近はやっていません。リハーサルや公演のスケジュールが詰まっていて…」
「忙しい時こそ、訓練が大切です。災害はスケジュール通りには起きませんからね」
小松さんの厳しい指摘に、支配人は頷きながら「なるほど」と納得した。
「劇場は感動を届ける場所ですが、観客やスタッフの安全を守ることも、その一部ですよ」
渡辺さんの優しい言葉に、支配人は「その通りです」と感謝の気持ちを込めて応じた。
こうして、小松さんと渡辺さんは劇場の防災対策を整え、観客やスタッフの安全を確保するための指導を行った。
「エンターテイメントも大事だけど、安全が第一だよね」
小松さんが帰り道で言うと、渡辺さんも「そうですね」と微笑んだ。
こうして、二人の防災対策の仕事は続いていく。どんな現場であれ、彼女たちがしっかりとした助言を与えることで、少しずつ改善が進んでいくのだろう。