一杯のカクテルと防災の話　１１

横浜の夜、バー「Serendipity」の暖かな光が街に優しく輝いていた。小松さんはカウンターで次のお客さんを迎える準備を整えていた。

その夜、ドアが開き、少し焦った様子の若いカップルが入ってきた。二人とも20代前半くらいで、慌ただしい様子を見せながらも、お互いを気遣っている様子がうかがえた。カウンターに座ると、男性が先に口を開いた。

「こんばんは。なんだか、心が落ち着くカクテルをお願いできますか？」

「こんばんは。そうですね、カモミールを使ったカクテル『カモミールティーニ』はいかがでしょう？落ち着いた香りがリラックスにぴったりです」小松さんは微笑みながら提案した。

「それ、二つお願いします」と男性は少し安心した様子で答えた。

小松さんがカモミールティーニを作り始めると、女性が小さな声で話し始めた。「最近、二人で同棲を始めたばかりなんですけど、なんだか急に地震のことが怖くなってしまって…。家もまだちゃんと準備ができていなくて不安で」

男性も少し困ったようにうなずいた。「そうなんです。防災って頭ではわかっていても、何から始めればいいのかわからなくて…」

小松さんはカモミールティーニを二人の前に置き、優しく微笑んだ。「同棲を始めたばかりだと、不安が多いですよね。でも、二人で一緒に防災準備を進めることができますよ」

「まずは、小さなことから始めてみるのがいいかもしれません。家の中での家具の固定や、簡単な防災グッズを揃えることから。少しずつ進めていくことで、安心感が生まれるはずです」小松さんは穏やかにアドバイスした。

女性は少し表情が和らぎ、「確かに、小さなことからでも始めればいいんですよね」と答えた。

「それに、お互いに助け合うことも大切です。防災は一人でするものではなく、パートナーと協力することで、より効果的な準備ができます」小松さんは続けた。

男性は感謝の気持ちで、「そうだね。一緒にやれば、少しずつでも不安がなくなりそうな気がする」と答えた。

「いつでもお待ちしています。ここは素敵な偶然が待っている場所ですから」小松さんは温かく言った。

二人はカモミールティーニを飲み干し、少し気持ちが軽くなったように見えた。彼らは小松さんのアドバイスを胸に、防災準備を少しずつ二人で進めていく決意を固め、夜の街へと戻っていった。

その夜もまた、「Serendipity」で生まれた人と人との温かい交流が、小松さんの心に深い満足感をもたらした。