一杯のコーヒーと防災の話 Season2　３

横浜市郊外に佇む小さなカフェ、『Serendipity Coffee』。

柔らかな日差しが窓から差し込み、店内にはほんのりとコーヒーの香りが漂っている。

カフェのオーナーである小松さんは、カウンター越しにドリップコーヒーを丁寧に淹れていた。

20代後半の彼女は、かつて防災コンサルティング会社で働いていた経験を持ち、その知識をこのカフェで相談しながら日々の会話を楽しんでいる。

その日、少し早めの時間に店内へ一人の男性が入ってきた。

40代後半の田中さんだ。会社員であり、普段は忙しく仕事をしているが、最近は自宅での防災について考えることが多くなっているらしい。

「いらっしゃいませ」

小松さんはにこやかに迎え、田中さんが席に着くのを見守った。

「今日はブラックじゃなくて、カフェラテをいただこうかな」

田中さんは少しリラックスした表情で注文した。

「かしこまりました。カフェラテですね」

小松さんは早速、ミルクを温めながら質問した。

「最近、何かお困りごとがあったんですか？」

「実はね、防災のことでちょっと相談したいんです」

田中さんはため息をつきながら言った。

「家族がいるんだけど、普段あまり防災のことを考えてなくて…。それで、何かあった時にどうすればいいのか、ちゃんと準備できているか不安なんです」

「それはよくあることですね」

小松さんはカフェラテを準備しながら頷いた。

「家族で防災について話し合うことはとても大切ですが、忙しいとつい後回しにしてしまいがちです。でも、できることから少しずつ始めるだけでも安心につながりますよ」

田中さんはカフェラテを一口飲み、少し気持ちが落ち着いた様子だった。

「そうですよね。まず、どんなことから始めればいいのか、具体的に教えてもらえますか？」

「まずは、家族で避難ルートや集合場所を決めておくことが大事です。災害時は、携帯電話が使えなくなる可能性もあるので、家族全員がどこに避難するか事前に話し合っておくといいですよ。近所の避難場所を確認して、家族で一緒にそこまで歩いてみるのも有効です」

田中さんは考え込みながら頷いた。

「なるほど、それならすぐにでもできそうですね。家族で避難場所を確認するって、簡単なようでしていませんでした。しかも、実際に歩いてみるのは大事ですね」

「そうです。それに、避難場所を決めるだけでなく、家の中でも身の安全を確保できる場所を探しておくと安心です。地震が起きた時に、安全に避難できる場所があるか、家具が倒れてこないか確認することが重要ですよ」

「なるほど、今まで防災って難しいものだと思っていましたが、少しずつやればできそうです。家族と話し合うだけで随分と安心できる気がしますね。ありがとうございます、小松さん。今日帰ったら、妻とも話してみます」

小松さんは微笑みながら頷いた。

「そうですね。防災は一人で抱え込むより、家族全員で共有することが大切です。お互いに助け合える準備ができていれば、安心感も増しますよ」

田中さんはカフェラテを飲み終え、少しスッキリした表情で席を立った。

「今日は本当に助かりました。早速、家で話してみます。また相談させてください」

「いつでもどうぞ。またお待ちしていますね」

小松さんは、田中さんが出ていくのを見送りながら、次の客のために新しいコーヒーを淹れ始めた。

店内は再び静かになり、ほのかにコーヒーの香りが漂う。防災の話が交わされたこのカフェでは、一杯のコーヒーとともに日常の大切なひとときが流れていく。