一杯のコーヒーと防災の話 Season2 ５

横浜市郊外に佇む小さなカフェ、『Serendipity Coffee』。

柔らかな日差しが窓から差し込み、店内にはほんのりとコーヒーの香りが漂っている。

カフェのオーナーである小松さんは、カウンター越しにドリップコーヒーを丁寧に淹れていた。

20代後半の彼女は、かつて防災コンサルティング会社で働いていた経験を持ち、その知識をこのカフェで相談しながら日々の会話を楽しんでいる。

その日、昼過ぎの時間帯に、50代の男性がカフェに入ってきた。

彼は初めての客のようだったが、落ち着いた様子でカウンターに近づき、メニューをしばらく眺めていた。

「アイスカフェモカをお願いします」

男性は、微笑みながら注文をした。

「かしこまりました、アイスカフェモカですね」

小松さんは微笑んで返事をし、手際よく準備を始めた。

「実は、防災についてちょっとお伺いしたいことがあるんです」

男性は遠慮がちに口を開いた。

「家族で防災について話し合おうと思っているんですが、何から話せばいいのか悩んでいて」

小松さんはアイスカフェモカを作りながら、男性の方に振り向いた。

「家族で防災について話し合うのはとても大切ですね。でも、確かに何から始めるかは迷いますよね」

「そうなんです。家族もあまり関心がなくて、どう話を切り出せばいいか…」

男性はため息をついた。

「まずは、家族で共有できる簡単な話題から始めるといいかもしれません。例えば、『地震が来た時にどこに避難する？』とか『災害時の連絡方法をどうする？』というように、具体的なシチュエーションを想像してもらうのが効果的です」

小松さんは、男性の前にアイスカフェモカを置き、話を続けた。

「なるほど、確かに具体的な話なら家族も興味を持ってくれるかもしれませんね。でも、実際に災害が起きたら、パニックになるのが心配で…」

男性は少し心配そうな顔をした。

「その気持ち、よくわかります。だからこそ、日頃から準備をしておくことが重要なんです。たとえば、家具の固定や非常食の備蓄、避難ルートの確認など。これらを家族みんなで一緒に準備することで、災害が起きた時にも冷静に対応できるようになりますよ」

「それを家族にどう伝えればいいか悩んでいましたが、小松さんの話を聞いて、少し見えてきました。防災は日常の一部にすることが大事なんですね」

男性は頷きながら、アイスカフェモカを一口飲んだ。

「その通りです。防災は特別なことではなく、日常生活に少しずつ取り入れていくものです。家族で一緒に取り組むことで、お互いの理解も深まりますし、自然と防災意識が高まっていきますよ」

男性はしばらく考え込んだあと、ふと微笑んだ。

「家族との会話のきっかけになりそうです。今日、帰ったら早速話してみます。ありがとうございました」

「どういたしまして。いつでも気軽に相談してくださいね」

小松さんは、再び優しく微笑んだ。

男性は感謝の言葉を述べ、カフェを後にした。外の陽射しは穏やかで、男性の足取りも少し軽やかに感じられた。

カフェの中には再び静けさが戻り、コーヒーの香りが店内を包んでいた。

小松さんは次のお客さんのために新たなコーヒーを淹れ始め、防災についての心温まる話は、また一つ日常の中で積み重なっていった。