横浜市郊外に佇む小さなカフェ、『Serendipity Coffee』。
柔らかな日差しが窓から差し込み、店内にはほんのりとコーヒーの香りが漂っている。
カフェのオーナーである小松さんは、カウンター越しにドリップコーヒーを丁寧に淹れていた。
20代後半の彼女は、かつて防災コンサルティング会社で働いていた経験を持ち、その知識をこのカフェで相談しながら日々の会話を楽しんでいる。
この日、夕方に一組の若いカップルが店に入ってきた。
初めて訪れた様子で、楽しそうにメニューを眺めていたが、やがて女性がカウンターに近づいて注文をした。
「カプチーノと、抹茶ラテをお願いします」
女性は、少し迷いながらもそう頼んだ。
「かしこまりました。カプチーノと抹茶ラテですね」
小松さんは微笑んで注文を受けると、さっそく準備に取り掛かった。
少しの間、カップルは店内を見回していたが、やがて男性が小松さんに話しかけた。
「このカフェ、なんだか落ち着きますね。友達から『防災のことを相談できる』って聞いたんですけど、本当ですか?」
「そうなんです。元々防災コンサルティングの仕事をしていたので、今でも興味があればお話しています」
小松さんはにっこりと答えた。
「何か気になることがあれば、どうぞ気軽に聞いてくださいね」
「実は、最近防災について考え始めたんです」
男性は少し真剣な表情になった。
「二人で一緒に住み始めたばかりなんですが、いざという時のために準備をしておこうかって。でも、何から始めればいいか全然わからなくて…」
「それは素晴らしいことですね」小松さんはカプチーノを作りながら、うなずいた。
「一緒に住むとなると、二人で協力して防災対策を考えるのが大事です。まずは、最低限の備蓄と避難経路の確認から始めるのが良いですよ」
「備蓄って、具体的にどれくらい必要なんでしょうか?」
女性が興味深そうに聞いた。
「家族全員分の水と食料を3日から1週間分備えておくのが基本です。あと、懐中電灯や携帯の充電器、救急セットなども用意しておくと安心です。お二人で一緒に準備するなら、普段の買い物に少しずつ追加していくと、無理なく揃えられますよ」
小松さんは抹茶ラテを仕上げながら、カップルに目を向けた。
「なるほど、日常の買い物に少しずつ追加していけばいいんですね」
男性は納得した様子で頷いた。
「大きな出費をする必要があるかと思ってたけど、それなら気軽に始められそうです」
「その通りです。それに、避難経路もぜひ確認しておいてください。住んでいる場所から最寄りの避難所や、安全な場所までの道のりを一度歩いてみるのもおすすめです」
小松さんは、二人の前にそれぞれのドリンクを置きながら言った。
「実際に歩いてみることで、いざという時にどんな道を通るかイメージしやすくなりますし、道中の危険な場所も確認できますからね」
女性は抹茶ラテを一口飲み、少し安心したように笑った。
「防災って、もっと難しくて大変なものだと思っていました。でも、こうやって少しずつ準備を進めるだけでも大丈夫なんですね」
「ええ、無理をしないでできることを少しずつ積み重ねていくのが、防災のコツです。そうやってお二人で一緒に考えていけば、きっと安心できる暮らしが築けると思いますよ」
小松さんは優しく微笑んだ。
カップルは笑顔で感謝の言葉を述べ、ゆっくりとドリンクを楽しみながら店内で過ごしていた。
窓の外は、夕日が柔らかく街を照らしており、二人のシルエットが穏やかに映し出されていた。
カフェの中は再び静かになり、コーヒーの香りが柔らかく漂う。
小松さんは次の客のために新たなコーヒーを丁寧に淹れ始め、防災についてのささやかなアドバイスが、今日もまた日常の中で温かく広がっていった。