一杯のカクテルと防災の話　１６

横浜の夜風が冷たく感じられる季節、「Serendipity」の温かい灯りは、まるで人々を優しく包み込むかのように輝いていた。

小松さんは、カウンターで次のお客さんを迎える準備をしていた。

その夜、ドアが開き、一人の若い男性が入ってきた。

彼は学生のようで、少し緊張した様子でカウンターに腰を下ろした。小松さんに向かって、少し控えめに話しかけた。

「こんばんは。何か、気分が落ち着くカクテルをいただけますか？」

「こんばんは。じゃあ、スノーボールはどうでしょうか？アドボカートとソーダの優しい甘さが、気持ちをリラックスさせてくれますよ」

小松さんは柔らかく提案した。

「それをお願いします」

彼は少し微笑んで答えた。

小松さんがスノーボールを作りながら、彼はぽつりと話し始めた。

「最近、大学で防災に関するプロジェクトを任されて…。でも、どうやって同じ世代の人たちに関心を持ってもらえるかがわからなくて」

小松さんは彼の言葉に耳を傾けながら、カクテルを仕上げて彼の前に置いた。

「防災の重要性を伝えるのは簡単ではありませんよね。でも、特に若い世代にアプローチするには、楽しさや実用性を感じてもらうことがポイントかもしれません」

彼はカクテルを一口飲み、「楽しさ…ですか？」と少し驚いた様子で尋ねた。

「例えば、SNSを使って防災の知識をシェアしたり、イベントを開いて防災グッズを実際に体験してもらうのはどうでしょう？それから、災害時に役立つテクニックをクイズ形式にしたり、実践的なワークショップを通じて学んでもらうのも効果的です」

小松さんはアドバイスを続けた。

「それは面白そうですね。確かに、ただ講義するよりも、みんなの興味を引けるかもしれない」

彼は少し明るい表情になった。

「そうです。防災を身近に感じてもらうためには、実際に体験して『自分にもできる』と思えることが大事なんです。そうすれば、興味がない人でも自然と関心を持ってくれることが多いですよ」

小松さんは優しく微笑んだ。

「ありがとうございます、小松さん。少しだけですが、自分にもできる気がしてきました」

彼は感謝の気持ちでいっぱいになりながら言った。

「いつでもお待ちしています。ここは素敵な偶然が待っている場所ですから」

小松さんは穏やかに答えた。

彼はスノーボールを飲み干し、心が軽くなったように感じた。

彼は小松さんのアドバイスを胸に、若い世代に向けて楽しくて実用的な防災プロジェクトを作り上げる決意を固め、夜の街に戻っていった。

その夜もまた、「Serendipity」で生まれた人と人との温かい交流が、小松さんの心に深い満足感をもたらした。