横浜市のオフィス街にある防災コンサルティングを行う株式会社防災小町では、日々様々な依頼が舞い込んでくる。
「小松先輩、次は小学校からの依頼です」
渡辺さんが、少し驚いたように資料を広げながら話しかけた。
「小学校か。子どもたちがいる場所だと、避難のタイミングや誘導が特に難しいね」
小松さんは少し表情を引き締めた。
「うん、特に低学年の子たちは、急いで避難するのが難しいでしょうねぇ」
渡辺さんも同意しながら、資料に目を通した。
二人が向かったのは、横浜市内にある小規模の小学校。校長先生が玄関で二人を出迎えた。
「今日はありがとうございます。最近、防災意識が高まっていて、もっと子どもたちの安全を守れるようにしたくて…でも、何から手をつければいいのか迷っていたんです」
校長先生は少し困った表情で説明した。
「まずは、校内の避難経路や非常用設備を確認させてください」
小松さんが落ち着いた声で提案すると、校長先生はすぐに案内を始めた。
「こちらが体育館につながる避難経路なんですが、問題ないでしょうか?」
校長先生が示した先には、広めの通路があったが、いくつかの掃除用具が置かれていた。
「この通路は確かに広いですが、掃除用具が邪魔になっていますね。緊急時にはここが詰まると、スムーズな避難ができなくなるので、物は片付けておく必要があります」
小松さんが指摘すると、校長先生は頷いた。
「確かに、日頃から注意しておかないといけませんね…」
「あと、子どもたちが慌てずに避難できるように、通路には目立つ誘導標識を設置しておくといいですよ」
渡辺さんが優しく補足した。
「なるほど、わかりました。すぐに準備します」
校長先生は真剣な表情でメモを取りながら応じた。
次に二人は、教室内の確認に移った。教室の中には、棚や机が規則正しく並んでいたが、いくつかの棚が固定されていないことに気づいた。
「この棚、固定されていないですね。地震が来たら倒れて、子どもたちが怪我をするかもしれません」
小松さんが厳しい口調で言うと、校長先生は驚いたように頷いた。
「ええ、棚を固定するなんて考えてもみなかったです…すぐに対策します」
「特に地震のとき、上に置いてあるものが落ちてきやすいので、軽いものだけにして、重いものは下に置くようにするといいですよ」
渡辺さんが優しいトーンで助言した。
「その通りですね…ありがとうございます」
さらに、二人は校内にある防災倉庫の確認を行った。防災用品はきちんと揃っていたが、消火器の配置に問題があった。
「消火器がちょっと隅に寄りすぎていますね。これでは、火災が発生したときに取り出しにくいです」
小松さんが指摘すると、校長先生は慌てて消火器を見つめた。
「わかりました、もっと目立つ位置に移動させます」
「それと、消火器の点検は定期的に行っていますか?」
渡辺さんが確認すると、校長先生は少し申し訳なさそうに答えた。
「最近は…忙しくて疎かになっていました」
「消火器は、いざというときに使えないと意味がありません。定期的に点検して、いつでも使える状態にしておくことが大事ですよ」
小松さんが冷静にアドバイスした。
最後に、二人は校長先生に避難訓練の頻度について質問した。
「避難訓練はどのくらいの頻度で行っていますか?」
「年に2回実施しています。でも、もっと増やした方がいいですよね?」
「そうですね。特に子どもたちは繰り返しの訓練で慣れていきます。少なくとも季節ごとに1回、いろいろな災害を想定して行うといいです」
渡辺さんが柔らかく答えると、校長先生は深くうなずいた。
「わかりました。定期的な訓練で、子どもたちを守れるようにしたいと思います」
帰り道、小松さんがふと呟いた。
「子どもたちがいる場所は、やっぱり特別な配慮が必要だね」
「うん、もしものときに守れるのは、大人たちですからねぇ」
渡辺さんも真剣な表情で応じた。
こうして、二人の防災対策の仕事は続いていく。
どんな現場であれ、彼女たちがしっかりとした助言を与えることで、少しずつ改善が進んでいくのだろう。