一杯のコーヒーと防災の話 Season2　１７

横浜市郊外に佇む小さなカフェ、『Serendipity Coffee』。

柔らかな日差しが窓から差し込み、店内にはほんのりとコーヒーの香りが漂っている。

カフェのオーナーである小松さんは、カウンター越しにドリップコーヒーを丁寧に淹れていた。

20代後半の彼女は、かつて防災コンサルティング会社で働いていた経験を持ち、その知識をこのカフェで相談しながら日々の会話を楽しんでいる。

その日の午後、カフェに若いカップルが入ってきた。

二人は楽しそうに話しながらメニューを眺め、やがてカウンターに近づいた。

「こんにちは。僕はカプチーノ、彼女はキャラメルフラペチーノでお願いします」

「こんにちは。カプチーノとキャラメルフラペチーノですね」

小松さんは注文を受け、微笑みながら準備を始めた。

「デートの帰りですか？」

「はい、そうなんです」

男性が少し照れくさそうに答えると、女性も笑顔でうなずいた。

「実は、最近二人で一緒に住み始めたんですけど、それで色々と考えるようになって…」

「お二人で住み始めたんですね。おめでとうございます」

小松さんは楽しそうに返事をしながら、スチームミルクを温め始めた。

「どんなことを考えているんですか？」

「実は、防災のことなんです」

女性が少し真剣な表情で言った。

「一緒に住むって決まった時、家のことや家具の配置を考えたんですけど、もし地震がきたらどうしようって思って。でも、どうすればいいのか、あまりよくわからなくて…」

「なるほど、二人での新生活で、そういった備えを考えるのはとてもいいことですね」

小松さんはカプチーノを作りながら、二人に目を向けた。

「まずは、家の中で安全な場所を確認するところから始めるのが良いですよ。例えば、倒れやすい家具の近くにはベッドを置かないようにしたり、避難しやすい場所に非常袋を準備しておいたり」

「家具を固定するっていうのも、やっぱりやった方がいいんでしょうか？」

男性が興味深そうに尋ねた。

「そうですね。特に大きな本棚や食器棚は、倒れた時に危ないので、L字金具などで壁にしっかり固定しておくと安心です。それに、キッチンの収納も扉が開いて中身が飛び出さないように、ストッパーをつけておくといいですよ」

小松さんは丁寧に説明を続けた。

「あと、寝室には割れ物を置かないようにするのもポイントです。万が一、夜に地震がきた時にガラスの破片でケガをしないように」

「そうか…考えてみたら、まだそんなに準備してなかったですね」

女性は少し反省するように言った。

「防災って、なんだか大変そうだと思ってたけど、こうやって少しずつできるなら、やってみようかな」

「その気持ちが大事です」

小松さんはキャラメルフラペチーノを仕上げ、女性の前に置いた。

「防災は、少しずつ日常に取り入れていくものですから。例えば、買い物の時に非常食を少し多めに買って備蓄しておくとか、普段使っているモバイルバッテリーを防災バッグにも入れておくとか、簡単なことから始められます」

「なるほど、それなら普段の生活に無理なく取り入れられそうです」

男性はカプチーノを受け取りながら、嬉しそうに笑った。

「この間、友達にも『地震がきたらどうする？』って聞かれて、ちょっと焦ったんですけど、これからはちゃんと答えられそうです」

「そうですよね。誰かに聞かれた時に、『こうするんだよ』って自信を持って言えると、安心感が違いますよね」

小松さんは優しく微笑んだ。

「お二人で新しい生活を始めるなら、一緒に防災について話し合っておくと、さらに安心して暮らせると思いますよ」

「ありがとうございます、小松さん。なんだか、これからやるべきことが見えてきました」

女性が感謝の言葉を述べた。

「また防災について何か聞きたくなったら、ここに来ますね」

「いつでもどうぞ。お待ちしています」

小松さんは優しく見送りながら言った。

「お二人の新生活が、安心して楽しいものになりますように」

カップルが店を出ると、夕方の街に優しい光が差し込んでいた。

カフェの中には再び穏やかな時間が流れ、コーヒーの香りがほんのりと漂っていた。

小松さんは次の客のために新たなコーヒーを準備しながら、防災の意識が少しずつ広がっていくことを感じていた。