横浜市のオフィス街にある防災コンサルティングを行う株式会社防災小町では、日々様々な依頼が舞い込んでくる。
「小松先輩、次はスポーツジムからの依頼です」
渡辺さんが、少し興味深そうに資料を見ながら話しかけた。
「スポーツジムか。確かに、運動中に何かあったらすぐに対応しないと大変なことになるね」
小松さんは、少し考え込むように答えた。
「そうですねぇ。特にトレーニング中の機材が多いですし、どうやって安全を確保するかが課題ですよね」
渡辺さんも頷きながら資料に目を通した。
二人はジムに向かい、受付で店長に出迎えられた。
「お忙しい中ありがとうございます。実は、最近防災のことをもっとしっかり考えようと思いまして…でも、どこから始めたらいいのか」
店長は少し困った表情で話し始めた。
「まずは、館内の配置や避難経路を見せていただけますか?」
小松さんが提案すると、店長はすぐに案内を始めた。
まず二人が向かったのは、広いトレーニングルーム。そこにはさまざまなトレーニングマシンや機材が並んでいたが、いくつかの機材が通路の近くに置かれており、動線を狭めているようだった。
「このマシン、通路を少し塞いでしまってますね。避難する際に邪魔になるかもしれません」
小松さんが指摘すると、店長は驚いた表情を見せた。
「ええ、考えたことがなかったです…すぐに移動させます」
「それに、地震が来たら機材が倒れてくる可能性もあるので、しっかりと固定しておくことが大事ですよ。固定具を使えば、見た目も邪魔になりませんし」
渡辺さんが優しく助言した。
「そうか、固定するという発想はなかったな…ありがとうございます。すぐに対応します」
次に二人は、スタジオエリアに向かった。そこでは、ヨガやエアロビクスのクラスが行われる場所だったが、壁際に置かれていた重たいダンベルが気になった。
「このダンベル、地震が来たときに動いてしまう可能性がありますね。重い物は、できるだけ低い位置に置いておくか、専用のラックにしっかり固定しておくと安心です」
小松さんが指摘すると、店長は感心したようにメモを取っていた。
「なるほど…今までは安全だと思っていたけど、見直す必要がありそうですね」
「あと、壁に鏡がありますが、これも飛散防止フィルムを貼ることをお勧めします。地震で割れたら、大変危険ですからね」
渡辺さんが優しい口調で補足した。
「そうですね。確かに割れたら怖い…ありがとうございます、フィルムもすぐに貼ります」
次に二人は、ジムの非常口や避難経路を確認した。非常口の前には掃除道具が置かれていて、すぐに開けられる状態ではなかった。
「この非常口、すぐに使えないと意味がないので、前には何も置かないようにしてください」
小松さんが少し厳しい口調で言うと、店長はすぐに「すみません、すぐに片付けます」と答えた。
「避難経路も、パニックにならずにスムーズに移動できるように、いつも広めに確保しておくといいですよ」
渡辺さんが補足すると、店長は「わかりました、気をつけます」と頭を下げた。
最後に、二人はジムの備蓄について確認した。水や簡易食などの非常用物資が備えられていたが、消火器の配置が少ないことが気になった。
「消火器が少ないですね。特にトレーニング機材が多い場所では、万が一の火災に備えて、各エリアに消火器があると安心です」
小松さんが冷静に指摘した。
「そうですか…そこまで考えが及んでいなかったです。ありがとうございます、すぐに追加します」
店長は真剣な顔で答えた。
帰り道、渡辺さんがふとつぶやいた。
「ジムって、みんな健康のために通う場所ですけど、安全が確保されてこそですよねぇ」
「うん、元気でいるための場所だからこそ、何かあったときに迅速に対応できる準備が必要だね」
小松さんがそう言って笑顔を見せた。
こうして、二人の防災対策の仕事は続いていく。どんな現場であれ、彼女たちがしっかりとした助言を与えることで、少しずつ改善が進んでいくのだろう。