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東日本大震災から数日後、田上茜3曹は陸上自衛隊の災害派遣部隊の一員として、宮城県の沿岸地域に派遣された。

視界いっぱいに広がる瓦礫と泥、津波の爪痕が色濃く残る街並み。

強烈な寒風が吹き抜け、避難所に響く子どもの泣き声が胸を締め付けた。

「田上3曹、ここが避難所です」

先輩の三浦2曹が田上を案内した。体育館には所狭しと毛布や段ボールが敷かれ、家を失った人々が肩を寄せ合っていた。

年配の女性、小さな子ども、表情を失った男性――どの顔にも疲労と悲しみが滲んでいる。

「すごい数ですね…」

田上は思わずつぶやいた。

「そうだな。でも、ここにいる人はまだ幸運だ。行方不明の家族を探して街を彷徨っている人もいるんだ」

三浦2曹の言葉に、田上は改めて背筋を正した。

「私たちができること、全力でやりましょう」

「その意気だ」

その直後、隊長が指示を出した。

「炊き出し班、すぐに準備を始めろ!田上3曹も手伝ってくれ」

田上は素早く行動し、大鍋が並ぶ炊き出しスペースへ向かった。

豚汁を作るため、大量の具材を切り、鍋をかき混ぜる。

冷たい風に手がかじかむが、田上は黙々と作業を続けた。

「田上3曹、少し休憩していいぞ」

「いえ、まだ大丈夫です。皆さんが温かいものを口にするまで頑張ります」

周囲の仲間たちもその言葉に触発されたのか、作業の手を休めることなく鍋をかき混ぜ続けた。

配食が始まると、避難所の人々が列を作った。

田上は笑顔を絶やさず、一人ひとりに豚汁を手渡していく。

「ありがとうございます」

「暖かい…助かります」

震える声で感謝を伝える人々。

田上は心の中で「少しでも力になれたなら」と思いながら豚汁を渡し続けた。

配食が落ち着くと、田上は体育館の中を見回った。

隅にぽつんと座る年配の女性の姿が目に留まった。

迷った末、田上はその女性の元に歩み寄った。

「寒くありませんか?豚汁は召し上がりましたか?」

女性は顔を上げた。驚いたような表情の後、微笑んだ。

「ああ、ありがとう。おいしかったよ。でも…」

女性の目に涙が浮かんだ。

「家族がね、見つからないんだ。津波で流されてしまって、それからずっと…」

「お名前を伺ってもいいですか?」

「佐藤清子と言います。娘と孫を探しているんだけど…」

田上は清子さんの肩にそっと手を置いた。

「大丈夫です。私たちも協力します。きっと見つかります。一緒に頑張りましょう」

清子さんは涙を流しながら「ありがとう」と繰り返した。

田上はその場で清子さんの話を詳しく聞き、必要な情報をすぐに上司に伝えた。

数日後、奇跡が起きた。

清子さんの娘と孫が無事に発見され、避難所での再会が実現した。

再会の瞬間、娘が母を抱きしめる姿を見て、田上は胸が熱くなった。

「田上さん、本当にありがとう。あなたが声をかけてくれなかったら、心が折れていたかもしれない」

清子さんの言葉に、田上は深くうなずいた。

「こちらこそ、支えられたのは私の方です。一緒に頑張りましょう」

その夜、田上は避難所の片隅で仲間と肩を寄せ合いながら、冷たい地面に座っていた。

「私がここにいる意味。それは、人と人をつなぐことだ」

そう心に刻みながら、明日もまた全力で活動することを決意した。

※このストーリーは、ノンフィクションを元に作成されたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。