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田上茜3曹が宮城県の被災地に派遣されてから10日が過ぎていた。

現地では、未だライフラインが復旧しておらず、避難所での生活は厳しいものだった。

その日の朝、田上は避難所内を巡回しながら住民たちの様子を見て回っていた。

「田上3曹、おはようございます」

炊き出しの準備をしていた後輩の佐藤士長が声をかけてきた。

「おはよう。準備は順調?」

「はい、今日はカレーです!少しでも皆さんに元気を出してもらえればと」

「いいね。みんなきっと喜ぶよ」

田上が笑顔を見せると、佐藤士長も嬉しそうにうなずいた。

しかし、その笑顔の裏で田上は避難所の空気の変化を感じ取っていた。

住民たちの表情が日に日に暗くなり、特に年配の方々は無気力になりつつあったのだ。

「田上3曹、ちょっといいですか」

避難所を管理している自治会の会長が近づいてきた。

「どうしましたか?」

「最近、お年寄りの中に、まったく食事を取らなくなってしまった方がいましてね。何か声をかけてもらえませんか」

田上は眉をひそめた。

「それは心配ですね。すぐに伺います」

案内されたのは体育館の隅。

田上は毛布をかぶってうずくまっている女性の元に歩み寄った。

「こんにちは、田上です。自衛隊の者です」

女性は薄く目を開けたが、すぐにまた目を閉じてしまった。

「大丈夫ですか?何か体調が悪いとか、食べ物が合わないとかありませんか?」

しばらくして、女性が小さな声でつぶやいた。

「もう、何も食べたくないのよ…」

田上はその言葉に心が痛んだ。

「どうしてですか?せっかく私たちがここにいるんですから、一緒に元気を取り戻しましょう」

女性はゆっくりと頭を振った。

「家も家族も、全部流されてしまったの。私が生きていても意味なんてないわ」

田上は一瞬言葉を失った。しかし、すぐに膝をつき、女性と目線を合わせた。

「私がここにいるのは、あなたに生きていてほしいからです」

女性は驚いたように田上を見た。

「私たち自衛隊は、人を守るのが仕事です。だから、どうか少しでも食べて元気を取り戻してください。大切な人のためにも」

その後、田上は女性の手を取り、炊き出しのスペースに誘った。

「今日はカレーですよ。一緒に食べましょう」

女性は迷いながらも立ち上がり、一口だけカレーを口に運んだ。

すると、少しずつ表情が柔らかくなり、気づけば完食していた。

「こんなにおいしいもの、久しぶりに食べました」

女性の言葉に、田上は心の中で安堵した。

夜、田上は避難所の片隅で仲間たちとその日の報告をしていた。

「田上3曹、今日もお疲れさまでした」

「ありがとう。でも、まだまだこれからだね」

田上は星空を見上げながらつぶやいた。

「消えかけた灯りを守るのが私たちの仕事だ」

その言葉に、仲間たちは静かにうなずいた。

※このストーリーは、ノンフィクションを元に作成されたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。