彼の名は小松五郎、フリーの防災コンサルタントである。
五郎は防災について独自の哲学を持ち、その哲学を求めて一人歩き続ける。
今日は、とある地方の農村部にある集会所から依頼が入った。
依頼主は、地域の自治会長である長谷川さんだ。
この地域は古い農家が多く、防災意識の浸透に苦労しているという。
特に、地震や大雨による土砂災害への備えが心配だという。
五郎は静かな田舎道を歩きながら、集会所へと向かった。
「農村部は災害時に孤立しやすい。だからこそ、地域全体で備える必要があるんだ」
集会所に到着すると、長谷川さんが笑顔で迎えてくれた。
「小松さん、遠いところまでありがとうございます」
「こちらこそ、お呼びいただきありがとうございます。まずは集会所を見せていただけますか」
五郎は、集会所の建物を見渡しながら内部へと入った。
木造の造りがどこか懐かしい雰囲気を漂わせているが、耐震性には不安が残る。
「この建物、築何年ですか」
「50年以上になります。地元の人たちが少しずつ手を加えながら使っていますが、耐震工事はまだしていなくて」
「古い木造建築では、耐震補強が命を守る第一歩です。まずは専門家に診断してもらい、補強の計画を立てるのが良いですね」
「そうですよね…予算的に心配ですが、自治会で相談してみます」
五郎は天井を見上げながら呟いた。
「こういう場所が地域の避難所になることが多い。だからこそ、最優先で安全を確保しなければならない」
次に、五郎は集会所の備蓄品の確認を提案した。
「災害時にはここが避難所になることを考えると、非常食や水、寝袋、簡易トイレなどの備蓄が必要です。現在はどのくらいありますか」
長谷川さんは申し訳なさそうに答えた。
「正直、あまり揃えていないんです。水が少しあるくらいで…」
「それでは足りませんね。最低でも数日分の備蓄を目安にしてください。また、高齢者が多い地域では、医薬品や持病のある方が必要とする物も考慮しておくべきです」
「なるほど…医薬品は確かに必要ですね。早速検討します」
五郎は集会所の外に出て、周囲の地形を確認した。
背後には山があり、土砂災害のリスクが高そうだ。
「この地域は土砂災害の危険区域に入っていませんか」
「はい、一部が警戒区域に指定されています。雨が降るたびに心配なんですが、避難のタイミングが難しくて…」
「土砂災害は一瞬の判断が命を分けます。早めの避難が鉄則です。自治体が発信する警報を活用して、避難指示が出たらすぐに行動できるようにしましょう」
長谷川さんは小さく頷いた。
「警報が出ても『まだ大丈夫だろう』と思ってしまう人が多くて…」
「それが命取りになります。特に高齢者は避難に時間がかかりますから、早めの行動を促すために、日頃から自治会で話し合っておくと良いですね」
五郎は独り言のように呟いた。
「備えるだけでは不十分だ。行動する準備があってこそ、防災が生きてくる」
最後に五郎は、防災訓練の実施を提案した。
「避難訓練を定期的に行いましょう。実際に動いてみることで、何が問題なのかが見えてきます。土砂災害の避難経路をシミュレーションしておけば、いざという時に慌てずに済みます」
「それは良いですね。自治会で計画してみます」
五郎は静かな農村の風景を見渡しながら、集会所を後にした。
「自然の恵みを受ける場所だからこそ、自然の脅威にも備えるべきだ。防災とは、暮らしを守るための知恵だな」
五郎の孤独な防災の旅は、今日も続いていく。