田上茜3曹は、瓦礫の中で失われたものを探し続ける日々を送っていた。
被災地では毎日のように新しい課題が発生し、田上たち自衛隊員は限られた時間の中で全力を尽くしていた。
その日も、田上たちは民家があった場所で瓦礫の撤去作業を行っていた。
崩れた壁や家財道具が泥にまみれ、かつての生活の跡がかすかに残る場所だった。
「田上3曹、この辺りを掘り進めましょう」
後輩の佐藤士長が声をかけた。
「了解。慎重に進めましょう。何か大切なものが埋まっているかもしれない」
田上はスコップを手に取り、泥の中から一つひとつ物を掘り起こしていった。
そのとき、泥にまみれた封筒を見つけた。丁寧な字で宛名が書かれている。
「これは…手紙?」
田上は封筒をそっと持ち上げ、周囲を見回した。
「誰か、これを探していた人がいるかもしれない」
その後、避難所に戻った田上は封筒を避難所の住民たちに見せながら、持ち主を探した。やがて、一人の少女が田上に近づいてきた。
「あの、それ、私のお母さんの手紙です」
田上は膝をついて少女と目線を合わせた。
「お母さんの手紙なの?」
少女は小さくうなずいた。
「お母さんが遠くに住んでいるおばあちゃんに送る手紙だったの。津波で流されちゃったけど、見つかるなんて…」
少女の目には涙が浮かんでいた。
「大切な手紙なんだね」
「うん。お母さんはいつも、おばあちゃんに元気でいてねって手紙を書くのが好きだったんだ」
少女の言葉に、田上はその手紙の重みを改めて感じた。
「大事に届けようね。きっとおばあちゃんも喜ぶはずだよ」
翌日、田上は少女と一緒に手紙を届ける方法を考えた。
ライフラインがまだ復旧していない中、田上たちは自衛隊の通信設備を使っておばあちゃんと連絡を取り、手紙を届ける手配をした。
「田上3曹、ありがとう」
少女は笑顔で礼を言った。
「あなたの手紙が見つかったおかげだよ。私たちはほんの少し手伝っただけ」
数日後、少女のおばあちゃんから手紙が届いた。
避難所の片隅で少女がその手紙を読んでいる姿を見て、田上は静かに見守った。
「おばあちゃん、元気みたい。ありがとう!」
少女の笑顔は、田上にとって何よりの報酬だった。
その夜、田上は同僚たちと今日の出来事を振り返っていた。
「今日、手紙がつなぐ絆を目の当たりにしました」
「お前、本当に住民の気持ちに寄り添うのが上手いよな」
先輩の中村2曹が笑いながら言った。
田上は少し照れながらも答えた。
「私たちの仕事は瓦礫を撤去するだけじゃない。人と人をつなぐことも、私たちの使命だと思っています」
仲間たちは深くうなずいた。星空を見上げながら、田上はまた新たな決意を胸にした。
「明日も、誰かの希望を見つけよう」
※このストーリーは、ノンフィクションを元に作成されたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。