一杯のカクテルと防災の話　２５

横浜の夜空が雲に覆われ、小雨が街灯に反射してきらめいていた。

そんな中、バー「Serendipity」の暖かな光が静かに通りを照らしていた。

小松さんは、カウンターで静かにグラスを磨きながら、お客さんを待っていた。

その夜、ドアが開き、若い男性が入ってきた。

彼は20代後半で、リュックを肩に背負い、少し急いだ様子だった。

カウンターに座ると、彼は小松さんに微笑んだ。

「こんばんは」

「こんばんは。雨の中お疲れさまでした。今日はどんなカクテルがお好みですか？」

「何か、ちょっと甘めだけど、スパイシーな感じのものをお願いします」

「かしこまりました。それなら、ダークアンドストーミーはいかがでしょう。ラムとジンジャービア、ライムの組み合わせが甘さとスパイシーさを絶妙に引き立てます」

「それをお願いします」

小松さんがカクテルを作り始めると、男性はリュックを足元に置き、ふと肩を落とした。小松さんはその様子を見て、静かに声をかけた。

「何かお困りのことがあるんですか？」

「ええ…。実は、最近キャンプに興味を持ち始めて、この前初めて友達と行ったんですけど、天気が急に悪くなって…。正直、少し怖い思いをしました」

「キャンプですか。それは楽しそうですね。でも、確かに自然相手だと予想外のことも起きやすいですよね」

「そうなんです。友達は慣れているから平気そうでしたけど、自分は全然準備が足りなくて。次に行くときは、ちゃんと備えておきたいと思ってるんです」

小松さんはダークアンドストーミーを仕上げ、彼の前にそっと置いた。

「ダークアンドストーミーです。どうぞ」

「ありがとうございます」

彼は一口飲むと、少しほっとしたように微笑んだ。

「これ、美味しいですね。スパイシーだけど、飲みやすい」

「気に入っていただけて良かったです。キャンプの準備ですが、まずは基本的な防災グッズを揃えることから始めるのが良いと思います」

「基本的な防災グッズ？」

「はい。ライトや予備のバッテリー、非常食、水、それに簡単な応急手当セットは必須です。天気が悪くなったときに備えて、防水シートや防寒具も役に立ちますよ」

「なるほど…。あの時も防水シートがあれば、もっと安心できたかもしれないですね」

「それに、天気の急変に対応するためには、事前に天気予報をこまめにチェックするのも重要です。防災アプリを活用すると、リアルタイムで気象情報を確認できるので便利ですよ」

「防災アプリ…そういえば、友達が何か見てたかもしれません」

「ええ。最新の情報が手に入るので、判断材料としてとても役立ちます。それと、何かあったときのために、事前に避難場所を決めておくと安心です」

「避難場所…。キャンプ場でもそんなことを考えなきゃいけないんですね」

「自然の中では、何が起きるかわかりませんからね。でも、事前にしっかり準備しておけば、安心して楽しむことができます」

彼は深くうなずき、カクテルをまた一口飲んだ。

「小松さん、ありがとうございます。次はもっとしっかり準備して、安心してキャンプを楽しめるようにします」

「いつでもお待ちしています。ここは素敵な偶然が待っている場所ですから」

彼はダークアンドストーミーを飲み干し、心が軽くなったような表情で席を立った。

小松さんのアドバイスを胸に、次のキャンプの準備を万全に整える決意を固めて夜の街へと戻っていった。

その夜もまた、「Serendipity」で生まれた人と人との温かい交流が、小松さんの心に深い満足感をもたらした。