一杯のコーヒーと防災の話 Season2　２２

横浜市郊外に佇む小さなカフェ、『Serendipity Coffee』。

柔らかな日差しが窓から差し込み、店内にはほんのりとコーヒーの香りが漂っている。

カフェのオーナーである小松さんは、カウンター越しにドリップコーヒーを丁寧に淹れていた。

20代後半の彼女は、かつて防災コンサルティング会社で働いていた経験を持ち、その知識をこのカフェで相談しながら日々の会話を楽しんでいる。

その日の午後、親子連れが店に入ってきた。

幼稚園くらいの男の子とその母親が、仲良さそうに手を繋いでカウンターに近づいてきた。

「こんにちは。アイスカフェラテと、オレンジジュースをお願いします」

「こんにちは。アイスカフェラテとオレンジジュースですね」

小松さんは微笑みながら、注文を受けて準備を始めた。

「今日はお二人でお出かけですか？」

「はい、近くの公園に行った帰りなんです」

母親が答えた後、男の子が小松さんに興味津々の顔を向けた。

「お姉さん、何してるの？」

「コーヒーを作ってるんですよ」

小松さんは男の子に優しく微笑みかけた。

「今日は遊び疲れたのかな？」

「うん、いっぱい走った！」

男の子は元気よく答えた後、ふと思い出したように母親に尋ねた。

「ママ、この間の地震、どうしてあんなに揺れたの？」

「この前、地震があったんですか？」

小松さんが母親に目を向けると、母親は少し苦笑しながら頷いた。

「そうなんです。夜中に結構大きな揺れがあって。でも、子供が怖がっちゃってどう対応すればいいのか分からなくて」

「それは心配になりますよね」

小松さんは氷をカップに入れながら言った。

「夜中に地震が起きると、特に子供はパニックになりやすいですもんね」

「そうなんです。寝ているところからすぐに動けなくて…結局、抱きしめて落ち着かせるのが精一杯でした」

母親はため息をつきながら続けた。

「こういう時にどうすればいいのか、全然分からなくて」

「まずは、子供が安心できる環境を作ることが大切です」

小松さんはアイスカフェラテを作りながら提案した。

「例えば、寝室に懐中電灯や防災グッズを置いておくだけでも安心感が違います。それと、普段から『地震がきたらどうする？』という話をしておくと、いざという時にも落ち着いて行動できますよ」

「話しておく…そういえば、今まであまり防災について話したことがなかったです」

母親は少し反省したように言った。

「防災は難しい話にする必要はないんです」

小松さんはオレンジジュースを仕上げながら言った。

「『もし揺れたらテーブルの下に隠れようね』とか、『懐中電灯はここにあるよ』といった簡単な話から始めるといいですよ」

「それなら子供でも分かりやすそうですね」

母親は少し明るい表情になった。

「今日帰ったら、早速子供と一緒に話してみます」

「それがいいですね。あと、家の中の危ない場所も一緒に確認してみてください。例えば、倒れやすい家具や落ちてくるものがないかを見るだけでも、安全性がぐっと上がります」

小松さんは優しくアドバイスを続けた。

「分かりました。やることが見えてきた気がします」

母親は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。

「また防災について相談したくなったら、来てもいいですか？」

「もちろんです。いつでもお待ちしています」

小松さんは親子を見送りながら言った。

親子が店を後にすると、カフェの中には再び静けさが戻り、爽やかなオレンジジュースの香りがほのかに漂っていた。

小松さんは次の客のために新たなコーヒーを準備しながら、親子の安全な日々を心の中で祈っていた。