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東日本大震災から2週間が経った。

田上茜3曹は、瓦礫撤去とともに、被災地で行方不明者の捜索活動にも従事していた。

地元住民が復興への道を模索する中、田上たちは地道に、そして確実に作業を進めていた。

その日の朝、田上は仲間とともに川沿いの地区で瓦礫撤去を始めた。

濁流によって運ばれた大量の木材や鉄くずが散乱し、作業は困難を極めた。

「田上3曹、この辺りで遺留品が多く見つかってるそうです」

後輩の佐藤士長が声をかけてきた。

「そうか。大切なものが埋まっているかもしれないね。慎重に進めよう」

田上はスコップを握りしめ、泥を掘り起こしていった。

すると、何か光るものが目に留まった。泥の中から出てきたのは、古びた腕時計だった。

「これは…」

田上は時計を丁寧に洗い流し、動かなくなっているその時計をじっと見つめた。

「持ち主が見つかるといいな」

その後、田上たちは避難所に戻り、住民たちに時計を見せて回った。

「この時計に見覚えがある方はいらっしゃいませんか?」

しばらくして、年配の男性がゆっくりと近づいてきた。

「ああ、それは私の息子が持っていたものです」

田上は驚いた表情で男性を見つめた。

「そうでしたか。この時計、大切なものだったんですね」

男性は静かにうなずいた。

「息子が社会人になったとき、私が贈ったものなんです。時計が戻ってきてくれて、本当にありがたい」

田上は時計を手渡しながら言った。

「きっと息子さんもこの時計を大事にしていたんだと思います。これが戻ったことで、少しでも心が和らぐなら嬉しいです」

男性は時計をじっと見つめた後、ぽつりとつぶやいた。

「息子がいなくなってから、何もかも失ったような気がしていた。でも、この時計が戻ったことで、もう一度息子と話せたような気がするよ」

田上はその言葉に心を打たれ、そっと男性の肩に手を置いた。

「私たちはこれからもあなたの支えになれるよう頑張ります。一緒に前を向いていきましょう」

その夜、田上は仲間たちと食事をしながら今日の出来事を話した。

「時計一つが、こんなに人の心を動かすなんて思わなかった」

「お前はいつも物を見つけるだけじゃなく、人の気持ちにも寄り添ってるからだよ」

中村2曹が笑いながら言った。

田上は少し照れくさそうに笑みを浮かべた。

「でも、私たちが見つけるのは物だけじゃなくて、希望だと思うんです」

仲間たちは深くうなずいた。星空の下で、田上はそっとつぶやいた。

「明日も誰かの希望を見つけられるように」

その言葉は夜風に乗り、静かに広がっていった。

※このストーリーは、ノンフィクションを元に作成されたフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。