多くの人にとって、自宅はもっとも安心できる場所だと感じられるかもしれません。
仕事や学校から帰ってくるとホッとする空間、家族と過ごす場所、災害時には避難所に行かずにとどまる「在宅避難」の拠点としても注目されています。
しかしその一方で、自宅は「もっとも命を落としやすい場所」になる可能性も秘めています。
地震や火災、土砂災害、洪水などが発生したとき、普段は安全と思っていた自宅が、一転して命を脅かす場所になることは珍しくありません。
この記事では、自宅が危険な場所になってしまうリスクについて、具体的な例を挙げながら、どのように備え、どうすれば安全な空間に変えられるのかを考えていきます。
地震による死者の多くが、自宅の中での家具の転倒や建物の倒壊によるものだというデータがあります。
大きな揺れが突然襲ってきたとき、重たいタンスやテレビが倒れ、ガラスが飛び散る。逃げようにも扉がゆがんで開かない。
火災が発生しても消火器がない、ガスの元栓の場所を知らない。そうした状況に直面すると、自宅にいること自体が命を危険にさらす結果になります。
また、夜間に災害が起きた場合、寝ている間に天井の照明が落ちたり、窓ガラスが割れてけがをすることもあります。
家があるから安心、ではなく、その家が「安全に過ごせる構造」かどうかが問われる時代になっているのです。
家の中の安全だけでなく、自宅の立地そのものが災害リスクを高めていることもあります。
たとえば崖の近く、河川のすぐそば、海抜の低い場所などにある住居は、土砂災害や洪水、津波のリスクが高い地域にある可能性があります。
行政が発表しているハザードマップを確認すると、自分の家が「要注意エリア」に含まれていたというケースは意外と多いものです。
しかし、それを知らずに生活している人も少なくありません。
自宅が安全であると信じて過ごしていた場所が、実は地震や豪雨に非常に弱い構造だったと気づくのは、災害が起きてからでは遅すぎます。
まずは「自分の家は安全なのか?」という問いを持ち、事実に基づいて判断することが必要です。
近年は「在宅避難」の考え方が広まり、避難所ではなく自宅で過ごす選択肢が一般化しつつあります。
しかし、必要な備えがなければ、避難所よりも過酷な状況になりかねません。
例えば、断水が続いたときにトイレが使えない。
停電で冷蔵庫の中身がすべてダメになる。情報源がなく不安ばかりが募る。
こうした状況では、たとえ家が無事であっても、生活そのものが破綻してしまいます。
備蓄の有無はもちろんのこと、懐中電灯や携帯トイレ、モバイルバッテリー、ラジオなど、最低限の防災セットを整えているかどうかが、生き延びられるかを左右するのです。
自宅を「生き延びる場所」に変えるには、日常の延長で備える意識が必要です。
自宅を最も危険な場所にしないためには、いくつかの対策が有効です。
まず、家具の固定。
大きな本棚やテレビ、冷蔵庫など、倒れて人を押し潰すようなものは、必ず壁に固定するか、滑り止めを使って倒れにくくする必要があります。
次に、ガラスの飛散防止。
窓ガラスや食器棚のガラス扉には、専用のフィルムを貼っておくことで、割れても飛び散りを防げます。
また、夜間の避難を想定して、枕元には靴やLEDライト、手袋などを常備しておくと安心です。
こうした対策は、特別な技術や費用がかかるものではありません。
むしろ、一度やっておけば何年も安心できるものばかり。
自宅を命を守る「避難拠点」に変えるために、すぐにでも取りかかる価値があります。
住まいは、生活の基盤です。
そこが安全であることは、災害時の生存だけでなく、生活の継続、そして心の安定に大きく関わります。
大切な家族を守るためにも、自宅が本当に安全な場所なのか、日々の暮らしの中で問い直し、行動につなげることが求められています。
どこに逃げるかよりも、どこで生き延びるか。
自宅がその場であり続けるために、できる備えは今日から始められます。
安心して帰れる場所を、本当に「安心な場所」に変えておきましょう。
自宅は、災害時にもっとも危険な場所になってしまう可能性を秘めています。
しかし、それを知り、対策をすることで、安全で頼れる空間へと変えることができます。
家具の固定や備蓄の準備、ハザードマップの確認など、今できることは多くあります。
普段過ごしている空間を見直し、「この家で本当に生き延びられるか」を自問することが、家族全員の命と未来を守る第一歩になります。
守られる家ではなく、自ら守れる家へ。
その視点を持って、防災と向き合っていきましょう。