防災対策の第一歩として、多くの人が思い浮かべるのが「防災グッズをそろえること」です。
非常用持ち出し袋、水、非常食、簡易トイレ、懐中電灯など、最低限のセットを用意することはもちろん大切です。
しかし、実際に災害が起きたとき、それらの防災グッズが「使える状態であるか」だけでなく、「使いたくなるかどうか」が、生き延びるうえで大きな違いを生むという視点は、意外と見落とされがちです。
この記事では、なぜ「使いたくなる防災グッズ」が重要なのか、そしてどのようにしてその意識を日常の備えに落とし込むかを、わかりやすく解説していきます。
どれほど機能的なアイテムでも、使い方が分からなかったり、使いづらかったり、気が進まないものであれば、いざというときには手が伸びません。
例えば、見た目が無骨で開けづらい非常食の缶詰。
説明書を読まなければ分からないポータブルトイレ。
手間がかかるヘッドライトや携帯ガスコンロなど。
そうしたグッズは、使える状態であっても、実際には「使わない選択」をされることがあります。
防災は、極限状態の中での行動が問われる場面です。
疲労やストレス、不安の中では、複雑な操作や工夫を要するものは敬遠されてしまいます。
だからこそ、「使えるかどうか」よりも、「使いたくなるかどうか」が、実用性の面でも精神的な安心感の面でも重要になるのです。
防災用品をしまい込んでしまうと、存在を忘れてしまいがちです。
タンスの奥、押し入れの段ボール、物置の中に眠ったまま、賞味期限が切れていたというのは、よくある話です。
「使いたくなる」グッズとは、日常でも便利に使える、使い慣れている、そして愛着があるものです。
たとえば、非常食として用意するレトルト食品や缶詰は、普段の食事でも使えるものを選ぶ。モバイルバッテリーや懐中電灯は、日常的に持ち歩いたり、枕元に置いたりしておく。これが「ローリングストック」や「防災グッズの生活化」という考え方です。
普段から使っているものは、使い方を覚えているだけでなく、いざというときにも抵抗なく使うことができます。
防災グッズは、しまっておくのではなく、日常に馴染ませておくことが大切なのです。
防災はどうしても「堅苦しいもの」「義務的なもの」と思われがちです。
しかし、実際に備えを続けられている人は、防災に「楽しさ」や「好み」を取り入れていることが多いのです。
たとえば、非常食を「家族で食べ比べするイベント」にしたり、防災リュックの中身を自分の好きなデザインのポーチで整理したり。
お気に入りのLEDランタンや、香りの良いアルコールジェルを入れると、自然とそれを使いたくなります。
使いたいと思えるから、備えることが苦にならず、続けられるようになるのです。
「これじゃなきゃイヤだ」ではなく、「これだから使いたい」と思えるアイテムを選ぶこと。
それが、続けられる防災の秘訣です。
災害を生き延びるための備えはもちろん大事ですが、そこで終わってはいけません。
その後の避難生活や復旧の過程で「生活の質を保てるか」が、心身の健康を大きく左右します。
そのために必要なのは、心がほっとする道具や、自分にとって快適と感じられる物です。
普段と同じもの、使い慣れたもの、好きな香り、落ち着く光や音──そういった要素があるだけで、避難生活のストレスは大きく軽減されます。
防災グッズは、非常時に最低限の命を守るためだけでなく、「普段の自分に近づけるための道具」として考えると、選び方も変わってきます。
だからこそ、機能性だけでなく「使いたいと思えるかどうか」を重視する視点が重要なのです。
防災グッズをそろえるときに大切なのは、使えるかどうかだけではありません。
本当に大切なのは、「使いたくなるかどうか」。
使い慣れたもの、好きなもの、日常にもなじむものを選ぶことで、いざというときの行動が自然になります。
防災を特別なものではなく、日常の延長として考えること。
そこに「使いたくなる備え」の本質があります。
備えることが苦にならず、続けられる。
そんな自分らしい防災スタイルを、ぜひ今日から見つけてみてください。